このブログでも多くの記事で避妊手術をお勧めしてきました。
避妊手術のメリットは猫本人にとっても飼い主様にとっても非常に多くあるからです。
ただ、人間というのは、勧められれば勧められるほど、「本当に大丈夫なの?」って思う少し天邪鬼なところがあると思います。
今回は、避妊手術で「本当に」起こった失敗例を皆さまにお伝えしようと思います。
ご存知かもしれませんが、このブログを書いているのは、今も実際に臨床現場で診察をしている獣医師です。
こういう話があったようですという話ではなく、自分が見た症例を皆さまにお伝えします。
実際に起こった出来事なので、特定できるような情報は伏せておきますので、その点はご了承ください。
卵巣の取り残しがあった
実際に私が診た症例です。
他の病院で避妊手術した後も、発情が終わらないという相談で診察させていただきました。
エコー検査で水泡状の構造物がある卵巣と思われる臓器を発見しましたが、飼い主様が望まなかったので、それを摘出する再手術は行いませんでした。
話を聞けば、避妊手術は発情が起こっているときに行ったということ。
推測ですが、発情中は卵巣周りの血管や膜も通常より太くなっている為、ちょっとした不注意から卵巣の取り残しが発生したのではと思います。
適切に行われた避妊手術後に発情が残ることはありません。
もしそういったことが起こったのであれば、獣医師と相談されるべきだと思います。
尿管を傷つけてしまった
これは大学で見た症例です。
実は大学病院ではたまに紹介される症例です。
ほとんどの動物病院でも、避妊手術ではできるだけ傷口を小さくしようと努めます。
もし機会があれば、このブログの動画を見ていただければわかるのですが、その傷口から盲目的にスペイフックと呼ばれる器具を使用して子宮を釣っていきます。
http://tsukisima.sakura.ne.jp/makasetakunaru-kyoseitohinin.net/movie
もちろん術者の熟練度によりけりなのですが、この際、子宮のそばにある尿管を傷つける、もしくは切断させてしまう獣医師が稀にいます。
猫の尿管は一度傷がつくと、手術でつなぎ合わせるのは非常に困難なので、基本的には予後不良であることがほとんどです。
私が見た猫は片側の尿管が生き残っていたため、現在も片側の腎臓だけで元気に生きています。
術後に何らかの神経的な後遺症が残ってしまった
正直な話、私自身の経験としてあります。
保護した猫で、詳細が不明でしたが術前の検査など行わずに避妊手術を行いました。
手術は勿論問題なかったのですが、手術翌日から半身が不随になってしまいました。
2週間ぐらいかけて、日常生活には問題がないレベルまで回復しましたが、多少の後遺症が残っています。
事前の血液検査ができるような状況であれば、少し結果は違ったかもしれません。
http://tsukisima.sakura.ne.jp/makasetakunaru-kyoseitohinin.net/805
術後に興奮して、自傷してしまった
これは動物病院ではたまに起こることです。
元来猫はストレスが非常にかかりやすい動物のため、その挙動を予測することは非常に困難です。
特に自宅で大人しい猫ほど、病院に来ると異常に興奮します。
麻酔覚醒後はさらに興奮しやすい状況になるため、術後ケージの中で爪を折ったり、最悪ケージの網をかんで歯を折ったなどの事故が今までありました。
あまりにも興奮している猫は、早々に退院のお願いをすることもありますが、突然そういった行動に出る猫もいるので、完全に防ぐことは残念ながらできません。
もともとそういう気質のある猫だとわかっている場合は、できるだけ早期に退院をさせます。
http://tsukisima.sakura.ne.jp/makasetakunaru-kyoseitohinin.net/830
避妊手術済みだった
ある程度大きくなった猫を保護した場合、オスなら去勢をしたかどうかは一目瞭然なのですが、メスの場合は明らかな切開線がなければ、避妊をしたかどうかはよくわかりません。
たまに去勢、避妊をした後に耳をカットしている場合もありすが、麻酔をかけ開腹して初めて気づく場合も何度かあります。
http://tsukisima.sakura.ne.jp/makasetakunaru-kyoseitohinin.net/248
もともと飼ってらっしゃる猫にはそういったことはありませんが・・・。
まとめ
ほとんどの獣医師は、猫の避妊手術において致命的な失敗の経験はないと思います。
ただ人の手が行うものですので、常に「0%」ではないということは常に意識に入れて、手術に取り組まなければならないと思います。
また飼い主様も、避妊手術とは言えども絶対ではないことを頭の片隅には入れていただければ幸いです。